No Fast-Foward, No Life(1)
浮かんどきました。
踏んどいて、と言われたので。
さて、なんの話かと申しますと、地に足をつけないで、部屋の中央に浮かんだ男の話です。
彼は、流行歌のヒットチャートを操る仕事をしていました。
「踏んでおいてね」と、毎日彼は"国王"に言われます。
すると、彼はヒットチャートに浮かんできそうな、しかめっ面したプロデューサー率いる歌手あるいはバンドを、彼の大きな足で踏み沈め、チャート圏外へと追いやります。
それが、彼の毎日の仕事でした。彼は正社員ではありません。しかし、このような重要な仕事を任されていたのです。
なぜなら彼は、有能だったからです。
有能といっても、この業界だけに通ずる話で、普段の彼は、一人前のカレーを食べるのに、2時間も時間を要するのろまでした。
「のろま野郎!」
という罵声を彼は、毎日最低3回は浴びせられます。それでも、彼はどんくさく陰気な性格をしているので、自分で自分を仕方ないと諦めていました。
そんな彼はある日、天職と出会うのです。
そう、それは踏み沈める仕事です。踏みつけ沈み込めて、若くてカネになりそうな連中を、しかばねにしてしまう、世にも奇妙な職業だったのです。